【思考実験】記憶なき罪人

    ◇ 世界観

    あなたは未来社会の司法心理官。
    ある日、極めて残虐な殺人事件の容疑者が拘束されました。
    証拠は完全。DNA、監視映像、動機の痕跡。すべて彼が犯人であることを示しています。

    ただし、彼には完全な記憶障害があります。

    事故によって脳が損傷し、「事件前の人格と記憶」がすべて失われているのです。
    いま目の前にいるのは、穏やかで反省深く、人を傷つける意思を微塵も持たない人間。

    医師たちはこう告げます:

    「彼は、かつての殺人者と肉体的には同一人物ですが、
    精神的には完全に“別人”です。人格は再構成され、過去の自己を認識できません。」

    司法はあなたに判断を委ねました。


    目次

    ◇ 問い:あなたは、彼をどう裁くべきか?

    選択肢A:かつての罪に対する責任として、有罪にする

    たとえ記憶がなくとも、犯行を行ったのは間違いない。
    責任は肉体に帰属するものであり、人格の変化は免罪の理由にはならない。

    選択肢B:無罪とし、社会復帰の支援を行う

    責任は“自覚できる意識”にこそ課されるべきだ。
    もはや殺人者ではない彼を罰するのは、倫理に反する。

    選択肢C:記憶を再構成し、当時の人格を“再生”する措置をとる

    最新の記憶復元技術を用いて、過去の自我と現在の人格を統合し、
    「当時の自己」を蘇らせてから裁く。
    ただし、それは“人格への介入”であり、倫理的リスクもある。


    ◇ 補助的な問い

    • 記憶が“罪の証拠”であるなら、記憶を失った人は「罪の主体」と言えるのか?
       記憶喪失者の人格は、もはや“事件を起こした人物”ではないと考えられるか?
       それとも、「記憶を持つか否か」によらず責任は負うべきか?
    • 「同じ肉体」であることと、「同じ人格」であること、
       あなたにとって“罪を負わせる基準”になるのはどちらか?
       罰は肉体に与えるものなのか、それとも意識にこそ課されるものなのか?

    この実験は、
    「人が人であることの境界線はどこか」
    「記憶・意識・責任の結びつき」
    そして「裁きとは誰に対して下すのか」という問いを私たちに投げかけます。

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